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30万ヒット記念没小説
ずっとイオン視点の話を書いているんですが、どうしても気に入らずに結局全部没にしちゃいました。
もったいないので下にあげてみる。
イオンの独白ですね。お暇な方はどうぞ。
―――あの人を、助けてやってよ・・・・・・
それが、己の被験者の最後の言葉だった。
イオンは病気で死にゆく運命にあった導師イオンのレプリカとして、この世に生を受けた。
ユリアの残した預言を誰よりも遵守するモースと、その預言を憎むヴァンの手によって。
彼らにとって都合の良い存在となるように作られた人形。
それがレプリカイオンの存在意義。
そうなるはずであったのだ、本来ならば。
誰の言葉にも逆らわず、ただ只管に優しく愚かな存在であれと。お前はその為だけに作られた紛い物なのだからと。
彼らに言われた言葉を繰り返すだけの、そんな人形に。
実際、あのままいけば遠からずイオンは彼らの為の人形となっていたであろう。
愚かな人形として。
だが、イオンはそうはならなかった。
ヴァンやモースの目を掻い潜って、その優しい手はイオンへと延びてきた。
イオンや、他の兄弟達を包んでくれた暖かな手に、イオンは人形としてではなく「イオン」として生きる事を教えられたのだ。
そこは、何処よりも暖かく、何処よりも安心していられる場所だった。
優しい思いに満ちた、春の日差しのような場所。
兄弟ができた。
辛い時でも苦しい時でも、一緒になって泣いてくれるような、そんな兄弟が。
父親ができた。
どんな怖いものからも、危険なものからも守ってくれるような、そんな父親が。
家族が、できた。
「導師イオン」ではなく、「イオン」の居場所が、できたのだ。
優しい人達に囲まれて、イオンは初めて生きる意味を知った。
道具でしかないと思っていた自分自身に価値ができた。
それがとても、とても嬉しかった。
ほんの僅かな時間しか、あの陽だまりにはいることはできなかったけれど。
優しい人達と、今は離れてしまったけれど。
それでも。
同じ場所にいなくとも、家族は繋がっていられるのだと知っている。
家族が、家族だと、胸を張って言える人達が自分を想ってくれているのだと、知っているから。
だから、イオンは平気だった。
ヴァンが。
モースが。
お前は道具に過ぎないのだと、ただの代わりに過ぎないのだとイオンに繰り返しても、大丈夫。
そんな言葉に惑わされる程、イオンが彼らと結んだ絆は脆くはない。
一人じゃないことを知っているから、イオンは強くあれた。
死の間際。自分のレプリカであるイオン達に、被験者は穏やかな声で言ったのだ。
家族を守ってと、自分達に居場所をくれた、あの優しい人を頼んだと。
イオン達が頷くと、被験者はほっとしたように微笑んだ。
頼んだからねとそう呟いて、彼は永久の眠りについたのだ。
家族の死は、幼いイオン達にとってはとても辛いものであったが、慰め合える家族がいた。
悲しみを分け合える、彼らがいた。
そしてイオン達は、被験者との約束を守る為にそれぞれができることをしている。
いつか、いつの日か、家族全員が共に笑って過ごせる時が来ると、そう信じて。
預言に翻弄される世界で、預言に殺される家族を守る為に。
そして何よりも、あの優しくて暖かいあの人を、守る為に。
居場所をくれた人。
家族をくれた人。
暖かい心をくれた人。
大好きな、人。
イオンにとっては、彼こそが「
いや、兄弟全員がそう思っているだろう。
あの人がくれたものは、それこそ両手では抱えきれない程にある。
光を信じられるのも。
人を愛せるのも。
未来を夢見れるのも。
世界を美しいと、そう思えるのも。
あの人が、愛してくれるからだ。
イオンにとっては、神様にも等しい人。
暖かい腕をくれるあの美しい人を守る為に、イオンは今を生きている。